山道の親子



あるカップルが夜遅くに山道でドライブを楽しんでいた時のことだ。

突然道路の脇のから幼稚園児ぐらいの少女が飛び出し、彼らの乗る車の前に立ちはだかった。

少女は何事かを大声で叫びながら両手を大きく広げ、彼らの車を停めようとしている。

ところが、運転していた男性は突然山道に現れた少女にすっかり気が動転してしまい、

大きくハンドルを切ると少女の脇をすり抜けてそのまま走り去って行った。


しばらく走り気持ちが落ち着くと、二人はさっき見た少女について話しはじめた。

こんな真夜中に、あんなに小さな女の子が山道に一人でいるなんて絶対おかしい。

さっきは気が動転していたので無視してしまったけど、もしかしたらあの子は迷子になって困っていたのでは?

そんなことを話していると、道の前方から若い男が走ってきた。

男は彼らの乗る車に気づくと、大きく手を振って停まってほしいというゼスチャーを見せる。

二人は今度は素直に従い、車を道の脇に停めた。

男は車に駆けよると、「この辺で私の娘を見かけませんでしたか?」と二人に尋ねてきた。

なんでも彼はこの山道を歩く途中で娘とはぐれてしまい、必死で探している最中なのだという。

するとさっきの子供は、父親とはぐれて困っていたのか。

そう納得した二人は彼に先ほど幼稚園児ぐらいの女の子に出会ったことを告げ、

そのだいたいの場所も教えた。

少女を置き去りにした罪悪感から、二人は「そこまで車で送りましょうか」と男に申し出たが、

男は「いえ、そこまでしていただかなくても結構です。どうもありがとうございました」

と言い残し、少女がいる方角へと走り去って行った。


それからしばらく経ったある日、二人が何気なくテレビを見ていると

、最近起きた幼女誘拐殺人事件の犯人が逮捕されたというニュースが流れた。

次の瞬間、画面に映し出された犯人の写真を見て彼らは顔色を失う。

何しろそこに映し出されていたのは、あの日山道で会った男だったのだから。

次に映し出された被害者の幼女の写真にも二人は見覚えがあった。

あの日、二人が山道で会ったのは親子などではなく、恐ろしい殺人鬼と、

その魔の手から逃れようともがいていた幼い少女だったのだ。


山道の親子 02


ある男性が夜遅くに山道で車を走らせていた。

ふと見ると、小さな女の子を連れた若い男性がとぼとぼと道を歩いている。

こんな真夜中に、こんな山の中を親子連れが?

不審に思った男性は車を二人の横につけると、

父親に向かって「こんな時間にどうなされたのですか?もしよければ町までお送りしましょうか?」と尋ねた。

すると、その男性は声をかけられたことに一瞬驚きの表情を浮かべた後、

「いえ、何でもありません。気にしないで行ってください」とやけにそわそわした様子で答えた。

なぜこの父親は、こんなに慌てているのだろう。

彼の不信感は募るばかりであったが、その男はすでに娘の手を引いて歩き出している。

これ以上かまっても仕方がないか・・・

そう思った彼は車を飛ばし、その場所をあとにした。


後日、彼はテレビのニュース番組で、

あの山道で会った男が幼女誘拐殺人事件の犯人として逮捕されたことを知った。

彼が連れていたのは自分の娘ではなく、初めから殺すつもりでさらってきた少女だったのだ。