ベッドの下




あるアパートで一人暮しをしている女性のもとに、同年代の友人が遊びにやってきたときのことだ。

時間を忘れておしゃべりに夢中になるうちに辺りはすっかり暗くなってしまい、友人は彼女の部屋に泊まっていくことになった。

彼女はベッドの上に、友人はベッドの脇に敷かれた布団の上にそれぞれ横になる。

部屋の中はすっかり静まりかえり、彼女はうとうとと眠りにつこうとしていた。

するとその時、突然友人が布団から飛び起きて彼女のことを揺さぶり、「急にアイスが食べたくなっちゃった。一緒にコンビニまで買いに行こうよ」と言い出したのだ。

彼女はもう眠かったし、別にアイスなど食べたくなかったので「私はいらない。一人で行ってくれば」と答えたのだが、

友人は「夜道を一人で歩くのは心細いから」と言って聞かない。

根負けした彼女は仕方なく友人と一緒にコンビニへ行くことにした。

ところが、家を出た途端に友人は彼女の手を強く引き、なぜかコンビニとは逆方向に向かって走り始めたのだ。

いったいどうしたというのだろう。

不審に思った彼女がわけを尋ねると・・・

「大きな声を出さないで!今から交番に行くのよ。私、見てしまったの。ベッドの下に、大きな包丁を持った男が隠れているのを!」

ベッドの下 その2


セールスマンが裏通りの小さなホテルに泊まった。寝る前にもう一本、ベッドで寝タバコをした。

すると火のついた煙草が手から落ちて、ベッドの手前に転がった。

夢うつつで拾おうとすると、下からスーッと手が伸びて、煙草をもみ消したのが見えた。

彼はしばらく息をこらしていた。少しして大声でひとりごとを言った。

ここのビールはとくべつ小便が近くなるのかなあ、またトイレに行きたくなっちゃったよ。

立ち上って部屋を出た。こうして彼は、うまく支配人に危険を知らせることができた。

応援を頼んで様子を見に行くと、ベッドの下に鉄の棒だけが残されていた。

ベッドの下 その3


昔、人里から遠く遠く離れたとある農場に小さな女の子が住んでいました。

ある日両親は町へ行かなければならなくなりました。

そこで両親は小さな女の子を、彼女を守る大きなコリー犬と一緒に残して出かけました。

(中略)そして彼女はベッドに入りました。真夜中にポタリ、ポタリという音がして彼女は目が覚めました。

とても怖かったのですが、手をベッドの横からおろすとコリーが手をなめたので、彼女は安心してまた眠りました。

(中略)朝になり、彼女がバスルームへ行くと、コリー犬がシャワーにぶら下げられていたのです。

のどを切りさかれて、血はすべて流れ出ていました。

小さな女の子は悲鳴をあげ続けました。

両親が帰って来て、ベッドの下にメモを見つけましたが、そこにはこう書かれていました。

「お嬢ちゃん、人間だってなめられるんだよ」




ベッドの下に潜む、恐ろしい殺人鬼の伝説。

襲われそうになるのがカップルであったり姉妹であったり、犯人の凶器が斧であったり鎌であったりと詳細は異なるかもしれませんが、

多くの方は一度ならずこの事件の話を聞いたことがあるのではないでしょうか。

ところが、実際にはこのような事件は一度も起きていません。

ベッドの下の男の噂は、まったくの作り話なのです。

今までに幾人ものジャーナリストやライターがこの噂の元になった事件を突き止めようと挑んできましたが、その努力は全て徒労に終わりました。

確かに「友達の友達」、「友達のいとこ」、「妹の友達」などがこの事件の被害者だと語る人は大勢います。

ところが、不思議なことにどこまで話をさかのぼっていっても事件は「友達の友達」、

つまり身近なようでありながら顔も名前もわからない第三者に起きたこととして語られ、そこから先へは進みません。

また、これはこの話が語られる際によく登場する「新聞に載っていた」というフレーズにしても同様です。

こう主張する人は、この話を聞かせてくれた人が「新聞に載っていた」と言っていたのを鵜呑みにしているだけに過ぎません。

実際にはどこまでさかのぼっても、該当の新聞記事どころか確かにその記事を読んだという人にすら出会えないのです。