アラブ人の恩返し
ある女性が街を歩いていると、地図を見ながらしきりに首をかしげているアラブ系の外国人男性に出会った。
どうやら彼は道に迷ってしまったようだ。
そこで生来親切な女性は彼に話しかけ、どこへ行きたいのかを尋ねると詳しく道順を説明してあげた。
するとそのアラブ人は感激した様子で彼女にこんなことを言ってきた。
「あなたはとても親切な人ですね。お礼に良いことを教えてあげましょう。
これから1週間の間は決して地下鉄に乗ってはいけません。いいですね。」
それだけを告げると、アラブ人は足早にその場から立ち去っていった。
この噂が流れたのは2001年9月11日におきたアメリカ同時多発テロ事件の直後のことです。
つまり、このアラブ人はテロリストの一味で、地下鉄で何かをやる気(我々日本人には地下鉄サリン事件の生々しい記憶が残っているわけですから、これはもちろん毒ガスをまくということなのでしょう)だというオチなのですね。
この話は世界的な旅する伝説で、例えばアメリカでは
○ある女性にアフガニスタン人の恋人がいた。
ところがある日、その恋人は突然失踪してしまう。
しばらくの間恋人からは何の連絡もなかったのだが、9月10日に「事情は説明できないが、こんな形で別れることになって残念だ。
詳しいことは言えないが、たとえどんなことがあっても明日は旅客機に乗らないでくれ。
そしてハロウィーン(10月31日)にはショッピング・モールには行かないでくれ」という内容のメールが来る。
翌日、WTCに旅客機が突っ込むのを見た彼女は、すぐにFBIにこのことを通報した。
という内容のチェーンメールが出回っていましたし、イギリスでも
○あるご婦人がハロッズデパートに買い物に行った時のこと、一人のアラブ系の男性が財布を落としたのを目撃した。
ご婦人は財布を拾い上げるとすぐに男性を追いかけ声をかける。
すると驚いたその男性は、お礼に財布をご婦人に譲ると申し出たのだ。
この申し出に今度はご婦人が驚いてしまった。
彼女は受け取るわけにはいかないとそれを固辞したのだが、男は譲ると言ってきかない。
しばらくそんなやり取りが続いた後、根負けした男はあきらめた様子で財布を受け取ると、
「あなたは親切な人ですね。お礼に良いことをお教えしましょう。○月×日には決してハロッズには近づいてはいけません」
とだけ婦人に告げてその場を立ち去っていった。
不審に思ったそのご婦人は直ちに警察に行き事の次第を報告。
婦人の話を聞いた警官は、現在イギリス国内に潜伏中と見られるテロリストの顔写真のリストをそのご婦人に見せた。
ご婦人はその写真の中から、直ちに先ほどの男性の顔を見つけたのであった・・・。
というような都市伝説が口授で流布しました。
また、同様の噂は過去にも何度かあり、北朝鮮が日本の頭越しにテポドン(北朝鮮側は人工衛星と主張)を打ち上げ、いずれは日本に撃ちこんでくるのではないかと国際的な緊張が高まった1999年にも似たようなデマが流れています。
そのデマとは、ある在日朝鮮人と付き合っていた女性が突然恋人から「事情は話せないがもう会えなくなった」と別れを告げられるのですが、
しばらくするとその彼から
「7月25日(バージョンによっては7月15日、8月13日など)には家族を連れて旅行にでも出かけてください。決して東京(バージョンによっては大阪)にいてはいけません」
という内容の手紙がくるというもので、タイプとしては今回アメリカで出回ったチェーンメールに近いものでした。
ところで1999年の7月といえば、何かを思い出しませんか。
そう、この噂は一種の“恐怖の大王”伝説でもあったのです。
また、1995年の地下鉄サリン事件後にも「オウムに入信した昔の友達から『○月×日には新宿へは行くな』という連絡があった」という内容のデマが流れていました。
この噂の起源がどこまでさかのぼれるのか、また発祥の地がどこなのかといったことはまだ突き止めきれていません。
しかし、これだけは言えるのではないでしょうか。
戦争やテロなどの大きな社会不安が身近なものとなる時、この噂は再び蘇えるであろうと。