ある日のこと、一人暮らしをしているある青年が部屋の中でだれかの視線を感じた気がした。
もちろん、部屋には彼の他にはだれもいない。
気のせいかな・・・
そう思って彼はそのことを忘れてしまった。
ところが、その日以来彼は毎日のように部屋の中で誰かに見つめられているような感覚に襲われるようになった。
彼の部屋はアパートの3階なので外から覗かれているとは考えにくい。
一度などは部屋のどこかに誰かが隠れているのではないかと思い家捜しをしても見たが、
もちろんその努力はむだに終わった。
俺は少しおかしくなってしまったのかな?
それで、ありもしない視線を感じるのだろうか・・・
そんな考えも彼の頭をよぎりだしたある日、ついに彼は視線の主を発見する。
彼の部屋のタンスと壁の間にあるほんの数ミリの隙間の中に女が立っており、じっと彼を見つめ続けていたのだ。
この隙間に立つ女の話は近年ではタレントの桜金造の持ちネタの怪談として広まった感が強いが、
もともとはれっきとした民間伝承ベースで広まっていた話であり、その起源は江戸時代にまで溯れる。
江戸時代の怪異話を集めた随筆集に「耳袋」というものがあるのだが、
そのなかに戸袋のわずかな隙間の中にすむ女の幽霊の話が出てくるのだ。
ちなみに、桜金造バージョンというのはどのようなものかというと、
○桜金造が撮影現場に来なくなった同僚をたずねに行くと
同僚は女がいて仕事に行くなというから現場に行けないんだと語る。
そこで金造が部屋を見まわすが女などいない。
女なんていないじゃないかというと、その同僚は台所にいるという。
そこで金造が台所に目を移すと、冷蔵庫と壁の間のわずかな隙間の中に女がいた
・・・というものである。
この話は隙間の女の類話の中では群を抜いて完成度が高く、話術の巧みさも手伝い聞くものを震え上がらせるような話に仕上がっていた。
そのためか、近年ではこの桜金造バージョンが隙間の女の代表例となっているようだ。