4人の若者をのせた一台の車が、夜の山道を走っていた。
やがて彼らがたどり着いたのは“出る”と噂されている峠のトンネル・・・
いわゆる、肝試しである。
トンネルは噂がたつだけあってなかなかに無気味な雰囲気であったが、4人もいればさすがに心強く、怖さもあまり感じない。
彼らは口々に「たいしたことないじゃないか」などと軽口をたたきながら
トンネルの前に集まると予定通り記念撮影を行い、再び車に乗り込んだ。
ところが、4人全員がとっくに乗り込んでいるのに、
なぜか運転席に座る若者は車を発進させようとしない。
他の3人は運転席の若者に向かって、どうしたんだよ、早く出せよなどと文句を言った。
するとその若者は仲間たちの方に振り向き、真剣な表情でこんなことを聞いてきた。
「俺たち・・・友達だよな?なにがあっても」
仲間たちは何いってんだよ、当たり前じゃないかと口々に答える。
それを聞くと運転席の若者は、泣きそうな顔で仲間たちにこう言った。
「じゃあ・・・俺の足下を見てくれ」
言われて彼らが若者の足下を覗き込むと・・・なんと、
車の床から2本の白い手がはえていて、その手が運転席の若者の足をがっちりと掴んでいたのだ!
驚いた3人は車から転がり降りると、“友達”を見捨てて一目散に逃げ出した。
それからしばらくたち、3人ががこわごわとトンネルの前に戻ると、
そこには車の姿はなく、運転席の若者も車とともにこつ然と姿を消していたという。
車も若者も今だ行方はわかっていない。
類話で幽霊が出ると噂の屋敷にいき一人が足をつかまれる。
あとで他のみんなが戻ると、床に引きずられた跡だけが残っていた・・・というものもあります。
古典的な伝説では墓場を歩いている時に、地面から這い出した死者に足を掴まれるというモチーフがしばしば登場します。
また、床や壁から手がはえるという話も意外と起源は古く、
「今昔物語」の一節にある大納言・源高明の住む屋敷の柱の節穴から子供の手がはえてきて人を手招きするという話が初見かと思われます。
それ以後も障子の隙間から現れる手だとか、トンネルでライトをつけると壁一面びっしりと手がはえていたといった話などなど、手がはえる話は無数に作られつづけました。
少し穿った見方かもしれませんが、
このような手がはえる話と足を掴む死者の手の話が合わさり、この伝説が生まれたのかもしれません。