パッシング



ある男性が夜遅くに車を運転していた時のことだ。

対向車線を走る一台の車が、すれ違いざまに彼の車に向けてパッシングをしていった。

時間が遅いので道を行く車はまばらであったのだが、その後も彼の車とすれ違う車のほとんど全てがなぜか彼の車に向けてパッシングをしていく。

いったいなんなのだろう?

彼は疑問に思いながらも、後で車を調べてみればいいと思いそのまま走り続けていた。

その時、突如彼の車の背後から騒音が響く。

彼の車の後ろにぴたりとつけた大型トラックが、彼に向けて何度もクラクションを鳴らしてきたのだ。

トラックの運転手はなぜか上の方を指さし、次に彼に向かって車を路肩に止めるように合図した。

彼には何が起きているのかさっぱり分からなかったが、とりあえず指示に従い車を路肩に止める。

続いてトラックも路肩に停車した。

彼は車から降りるとトラックに向かい、運転手に「いったい何があったのですか?見たところ、わたしの車に異常は無いようですが・・・」と尋ねた。

すると、その運転手は青ざめた顔でこう答えたのだ。

「あんたの車の屋根の上におかっぱ頭の女の子が座っていたんだよ。あんたが車を停めたとたん、すーっと消えちまったがな・・・」




屋根に座っていたのは老婆であった、とするバージョンもあります。

この話と似たモチーフを持つ物語に、アメリカに伝わる都市伝説である「車の上の殺人者」があります。

これはいわゆる通り魔伝説の一種で、

「ある女性が夜道を走っていると、一台の車が彼女の車に並走しはじめた。

並走する車の運転手は彼女に向かい窓を閉めて自分の車にくっついて走るように告げると、スピードを上げて彼女の車の前に出て道をジグザグに走り始める。

わけがわからないまま彼女がそれに従い走り始めると・・・彼女の車の屋根の上にいた斧を持った男が振り落とされ、彼女はすぐ近くまで迫っていた危険から我が身を守ることができた」

という内容のものです。

「車の屋根の上にいるものへの警告」というテーマは共通しているのに日本の伝説に登場するのは幽霊、アメリカの伝説に登場するのは殺人鬼。

車の屋根の上という目に見えない場所に何か“恐ろしいもの”が潜んでいたら・・・と想像するところまでは一緒でも、

思い浮かべた“恐ろしいもの”が日本とアメリカではまるで違っていたといったところでしょうか。

この違いは両国の国柄を反映しているようで実に興味深いものがあります。