ある所にとても仲の悪い夫婦と、二人の間に生まれた小さな男の子が住んでいた。
ある日のこと、妻との言い争いの最中に激昂した夫は思わず包丁で妻を刺し殺してしまう。
我に返り青ざめた彼は台所の床下に穴を掘ると、その場所に妻の死体を埋めた。
自責の念から自首することも考えたのだが、
そうするには残された息子があまりにも不憫でならない。
そこで息子には「母さんは遠いところへ旅に出た」とだけ告げ、
近所の人たちには「実家へ帰っている」と嘘をつき、ごまかし通すことにした。
ところが、その日からどうも息子の自分を見る目がおかしい。
もしかしたら、見られたのか?
そうだとすれば仕方がない、いっそのこと息子を殺して自分も・・・
そんな考えに追い詰められたある日、
彼は食事の席で息子に「一つおまえに言っておきたいことがある」と言った。
我が子を手にかける前に、真実を伝えておこうと思ったのだ。
ところが、彼が次の言葉を発する前に、息子がこんなことを聞いてきた。
「お父さん、僕もお父さんにどうしても聞きたいことがあるの。
お父さんは、どうしてずっとお母さんをおんぶしているの?」
この話も実に様々なバージョンがありますが、
「背の上の死者」を見ることができるのは子供だけである、という点は共通しています。
古来日本では「七歳までは神のうち」といい、
七歳までの子供はまだ人間ではなく、神に近い存在であるという考え方がありました。
これは元々は当時の子供の死亡率の高さから七歳までの子供はいつ死んでもおかしくない
=神様のもとへ帰っていくかわからない、
という考え方から来ていたようですが、
ここから転じて子供には同じ神の領域に属する「鬼(ここでは死者の霊のこと)」
を見ることができるという俗信が生まれたようです。
(他にも、子供は架空の遊び相手を自分の中で作り上げることがあるため、
それを見た周囲の大人が子供には霊が見えると考えるようになっていった・・・
というのもこの俗信の背景にはありそうですが)
この子供には霊が見えるという考え方は日本人の中に根強く残っており、
そのためこの伝説でも霊を見る役にはいつも子供が選ばれているのでしょう。