こっくりさん

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「こっくりさん」は日本においてもっとも有名な霊遊びだ。
子供の頃、実際にやったことがあるという方も多いと思う。

通常、こっくりさんには鳥居と50音の文字、さらに「はい」、「いいえ」などが書き込まれた紙の上に十円玉を乗せ、
この十円玉の上に数人(通常は3人。1人でも出来る)が指を軽く乗せることで行う。

エンゼル様などの同種の霊遊びではボールペンなどの筆記具を握り、自動書記によって占いを行うこともあるが、いずれにせよ簡単な道具だけで手軽に出来るのが特徴だ。
この“簡単な道具”で“手軽にできる”ということがこっくりさんの人気の大きな秘密であろう。


さて、道具の準備が整い十円玉に指を乗せたら、次は厳かに呪文を唱える番だ。
この呪文には通常、「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたら、こちらへお越し下さい」などといった簡単で覚えやすいものが選ばれている。

この呪文を唱え、しばらく待っていると、不思議なことに誰も力を入れていないはずなのに勝手に十円玉が動き出す。

種を明かせばこれは腕の筋肉が無意識で動く 「不随意運動」 という現象に過ぎず、
実際はこっくりさんを行っている者たちが無意識のうちに十円玉を操作しているだけなのだが、
そんなことを知らない子供たちにとっては目の前にこっくりさんが降りてきたと感じられるわけだ。

十円玉は文字盤の上を滑るように動き、質問者の問いに答える。

実際に動かしているのは質問者自身の無意識なのだから、
「私の名前は何でしょう?」のように質問者にとって明白な問いなら十円玉は間違いなく答えを言い当てるが、
「○○君は私のことが好きですか?」といった問いなら希望的観測による答え(質問者が悲観的な人間なら、悲観的な答え)を出すし、
「10年後の世界はどうなっていますか?」といった質問者にも見当のつかない問いならば、まったく当てにならない答えしか出せない。

質問者がわかっていることにしか答えられないのだから、未来を知る上でこっくりさんが役に立つことはないであろう。


本来のこっくりさんの起源は、一般には西洋の占い遊びである「テーブル・ターニング」にあると言われる。
テーブル・ターニングとはテーブルを囲んで数人で座り、テーブルの上に手を置いて霊を呼び出すというもので、
霊が現れるとテーブルが傾いたり、回ったり、脚が床を叩いて音を出したりするというものだ。

このテーブル・ターニングの仕組みも何のことはない、こっくりさんと同じで不随意運動を利用したものなのだが、
それはともかく、このテーブル・ターニングは明治17年ごろに日本に上陸し、日本全国で大流行となった。

テーブル・ターニングは、やがてそのテーブルが「こっくり、こっくり」と傾くさまから「こっくりさん」と呼ばれるようになったという。

「こっくりさん」には「狐狗狸さん」などといった当て字が使われるため、その正体は動物霊とされることが多いのだが、
実際には狐や狸とは何の関係もないところから名前が取られていたわけだ。

ところで、もうお気づきとは思うがこの明治時代の「こっくりさん」と現在の「こっくりさん」はまるで様相が異なる。

現在の十円玉を使う「こっくりさん」の起源は、どうも西洋の別な霊遊びである「ヴィジャ盤」にあるようだ。

「ヴィジャ盤」とはアルファベットや数字、
「はい」、「いいえ」などの文字が印刷されたハート型の板を使って行う占いで、
その遊び方は現代のこっくりさんに類似する。

映画「エクソシスト」の原作小説において、少女が悪魔に取り付かれた原因をこのヴィジャ盤遊びとしていたのをご存知の方も多いであろう。

このヴィジャ盤が日本に入ってくる過程で、なぜテーブル・ターニングを起源とするこっくりさんと混同されてしまったのかはわからないが、
1973年頃にこのヴィジャ盤風のこっくりさんは小中学生の間で大ブームとなり、以後は「こっくりさん」といえばこのヴィジャ盤風のものをさすようになったのである。


さて、ここまでこっくりさんについてその正体、起源と解説してきたわけだが、まだ一つ大きな謎が残っている。

それは、こっくりさんが原因で起こるという“キツネ憑き”だ。

こっくりさん遊びに興じていた児童らが突然何かに取り憑かれたかのように暴れだしたり、泣き出したり、
正気を失って意味不明のことをわめきだしたり…といった事例は実際に多く報告されている。

こっくりさんが霊による占いではないとすると、これらの現象は一体なぜ起こるのであろうか。


結論から言ってしまうと、これらは自己暗示による一種の催眠状態である。

そもそも、召還されたこっくりさんが(正しいかどうかはおいておくとして)質問にちゃんと答えてくれるのは、質問者が自己暗示にかかっているからだ。

こっくりさんの存在を信じる質問者は、自己暗示によって無意識に十円玉を自分が正しいと思う答えに導き、
その結果を見ることによってますます深く暗示にかかっていく。

このような催眠状態化で 「もし、自分にこっくりさんが取り憑いたら…」 などといった不安を抱けば、

その結果は予想できよう。

結果、質問者は「こっくりさんに取り憑かれた」という暗示にかかってしまい、その通りに振る舞いだすのだ。


多くの学校で、こっくりさんが禁止されている理由はこんなところにある。

「こっくりさん」などという霊は実在しないが、こっくりさん遊びが時に危険なものとなることは確かなのである。